第146回北天満サイエンスカフェ 「食品ロスを出さないために」 今回の話題は「食品ロスを出さないために」です。追手門学院大学の宮崎崇将さんに話題提供をしていただきました。 食品ロスとは, 本来食べられるのに捨てられてしまう食品のことです。例えば, 加工過程で成形に失敗したり, 店頭で期限切れになったり, 冷蔵庫で腐敗したりした食品が挙げられます。日本全体の食品ロスは1年間でおよそ600万トン排出されており, これは東京ドーム5杯分にあたるそうです。 この大量の食品ロスを生み出すひとつの要因が, 加工食品の「3分の1ルール」です。食品の賞味期限を3等分し, 最初の3分の1の間に小売店に納品し, 次の3分の1の間は店頭で販売できる期間とされています。消費者に安全な状態の食品を提供するため, 1990年代に生まれた慣習ですが, 日本は諸外国よりも厳しい基準を採用しているため大量の食品ロスが排出されています。 食品ロスは加工食品だけの問題ではありません。野菜や果物などの生鮮食品は細かく規格が管理されており, 規格に適合しない野菜は廃棄されます。その廃棄量は生産量全体のおよそ40%と言われていますが, これらは出荷前に廃棄されるため食品ロス量に含まれません。食料自給率を高めようとする一方で, 大量の廃棄を生み出すほど厳格に規格を管理するのはなぜなのでしょうか。 近年はスーパーマーケットのような広域展開の販売スタイルが定着し, 安定した価格と質と食品輸送が特に強く求められるようになりました。日々大量の野菜を確実に運ぶためには, 単位重量当たりの必要なスペースが一定だと効率的です。また, 相対的に見栄えの悪い野菜は売れ残りやすいので, 商品の質は揃っている方がお店の損失は小さくて済みます。 現在は, 規格外野菜の流通を拡大する動きが広がっています。例えば、地元の農産物直売所や産直通販, やさいバス (既存のバス停を利用して野菜を共同配送するシステム) などの取組が紹介されました。また, テクノロジーを活用して流通経路の透明化などを進めることで食品ロスを減らせる可能性もあるそうです。 今回取り上げた食品ロスの問題は, 生活スタイルの変遷や意識の変化, 生産者と販売者の非対等な関係, 効率を求める経営戦略などなど, 非常に複雑な要素が絡み合っています。社会のあらゆる側面と関連している問題に対して私たちはどのように向き合っていけばよいのでしょうか。 ちょっと覗いてみる
第145回北天満サイエンスカフェ 「SNSが深化させる社会的分断とその克服」 年が明けて初めてのサイエンスカフェです。第145回もオンライン開催となりました。今回の話題は「SNSが深化させる社会的分断とその克服」です。福井大学名誉教授の小倉久和さんに話題提供をしていただきました。 昨年から新型コロナウイルスに関して様々な分断や対立が目立つようになりました。また, アメリカ大統領選など政治に関するSNSの影響も大きく取り上げられています。SNSによる社会の分断は日常生活の様々な場面で世界的に進行していると言えるのではないでしょうか。 これまで, 人々の情報収集や意見形成は, 新聞・テレビ・ラジオなどのマスメディアによって支えられてきました。また, 例えば17~18世紀イギリスのコーヒーハウスのように, 異なる見解を持つ人々が情報を交換しながら議論を戦わせることで世論が形成されていました。しかしSNSをはじめとするインターネットの普及により, 状況は大きく変化しています。 そのひとつが「フィルターバブル」の形成です。Webページに表示される広告が個人に合わせてカスタマイズされるのと同じように, 様々なニュースや言論も知らないうちにカスタマイズされて表示されています。興味のある話題や, 自分と同じ意見にだけ接するようになっていくということです。その結果, 対立する意見や情報を全てフェイクと思い込んだり, 過剰にバッシングしたりして, 分断の拡大を進めていきます。 この「フィルターバブル」はAIの学習により構成されており, 個人の閲覧履歴などのデータをもとに個人の興味や立場を機械が判断しています。このように, 膨大なデータに基づいた様々な予測や判断を行うために, AIは社会のあちこちで利用されるようになりました。しかし機械学習は, 曖昧なルールを扱うことや, その場に適応した一度きりの対応をすることが非常に苦手です。このことをよく理解しないまま, AIを万能の手段のように導入することは大きな危険を伴います。 小倉さんは, 教育現場での指導方針の判断にAIを取り入れることは, 多様性を崩壊させる可能性を指摘し, AIへの依存に警鐘を鳴らしました。そして最後に, 一様性と多様性は社会の発展の両輪であり, 特に教育の多様性維持が社会的分断を克服する鍵になるのでないか, と締めくくりました。 ちょっと覗いてみる
第143回北天満サイエンスカフェ 「梅田墓から見える大坂庶民の暮らし」 今回のサイエンスカフェも、オンラインで開催になりました。話題は8月に報道発表され、注目を集めた梅田墓の発掘調査結果が取り上げられました。当サイエンスカフェの主催者北天満地域にとっては地元の話題なので、商店街の路上で、暖かい陽を浴びながらのどかに開催できればよかったのですが… 梅田墓の発掘調査は、大阪駅北の貨物駅跡地の再開発に伴うもので、発掘現場は埋め戻されることはなく、更地になり新しい商業地となってしまいます。そのため、最初で最後の発掘調査でした。 大阪市 報道発表資料 村田路人さん(神戸女子大学)は、江戸時代の大坂の町の成り立ちを紹介しました。今でこそキタの中心である梅田は、大坂の町の北の外れにあり、梅田と言えば梅田墓のことを指していました。江戸時代の大坂は、今よりずっとコンパクトで、人口も今の大阪市の1/10の30万人くらい、1時間も歩けば端から端まで移動できました。また、岡村勝行さん(大阪市博物館機構)から、発掘調査結果が紹介されました。1500体に及ぶ遺骨の分析結果はこれからに待たれます。埋葬時期にあまり差がないのに、梅田墓の北部と南部で埋葬のされ方に明確な違いが確認されました。南部では,1体ずつ棺桶に収め丁寧に埋葬されているのに対して、北部では1つの穴にたくさんの遺骨が積み重なって葬られていました。 江戸時代の終わりから明治初期にかけても、日本では繰り返し感染症の大流行がありました。大坂でも毎日たくさんの死者が出て、火葬が追いつかなかったとの記録があるそうです。今回の発見は、その1つに符合するものかもしれませんが、正確な埋葬時期の特定までは未だ難しいようです。 死者を埋葬する文化は、ネアンデルタール人でも確認されています。王侯貴族の墳墓だけでなく、庶民の共同墓地であっても、それは人間の心の進化を計り知るための第1級の考古学資料です。また、それらはこれからの都市文明の在り方を考えるための貴重な都市遺跡でもあります。きちんと保存すれば、これからもたくさんの発見が期待されたであろうに、再開発事業のために失われてしまうのは、まことに残念としか言いようがありません。 …(前回以前の記録)