北天満サイエンスカフェ
北天満サイエンスカフェは、天五中崎通り商店街(おいでやす通り)で行われている、まちづくりと地域活性のための
プロジェクトです。お茶を飲む気軽さで、科学者と一般の皆さんが議論・交流する場を提供しています。


第85回 「安全な作物を生産・提供するために私たちができること -神戸大学篠山フィールドステーションの取り組みから-」
今回のサイエンスカフェは食をテーマにしたものでした。大阪大学の学生たちも参加してくれています。話題提供の清野さんは神戸大学で教員をされている方でもあり、学生の健康を気遣うメッセージが随所にちりばめられたカフェになったと思います。



本題に入る前に、一つ質問です。そもそも「安心」と「安全」の違いを考えたことはありますか。安全とは科学的な手法で測られた客観的なデータのこと、安心とは主観的なもので人それぞれの判断にゆだねられるもの、との定義付けを確認しました。これはなかなか新鮮な指摘でした。普段の生活の中でよく考えることですがあまり区別していませんよね。科学的な数値に基づいた自分で納得できる判断なのか、他の人のうまい話に乗せられて思いこんでいるだけなのか、どんなことでも一度立ち止まって考える必要があるのかもしれませんね。
清野さんは、神戸大学農学部が開催している授業「実践農学入門」で主に学部1年生を対象に兵庫県篠山でのフィードワークを行っています。農学部の学生であっても農家出身の子はほとんどいなく、現地の農家さんの協力を仰ぎながら生の農作業を体験させてもらうというものです。この授業に参加した学生は「必要以上に農薬をまく」ということに驚くそうです。大学の机上学んでいることに加え、実体験として農業を学ぶことができるのはとても貴重な経験になりますよね。また、この授業が終わっても、学生が自主的にサークルを作って農家さんと継続的なつながりを持ち活動をしているようです。神戸から篠山までは自動車学校の無料送迎バスを利用させてもらったりと、地域ぐるみで学生をサポートする仕組みが出来上がっています。
実は、今回のサイエンスカフェでは、納豆の路上販売もしていました。神戸大学篠山フィールドステーションで製造しているもので「ぜひこの機会に皆さんにも」と清野さんがご持参してくださりました。いかに手間をかけずに作物を栽培できるか、もしほったらかしで黒大豆の栽培とどうなるのか。というから始まった黒大豆栽培プロジェクトで採れた健康的なお豆を使用しています。この豆を育てるのにかかった作業日は10日ほど(!)。しかし、それでも一反あたり92.8 kg(収穫見込みの6割)の黒大豆を生産でき、新しいスタイルの農業の兆しが見えたと言います。意外にも、作物は雑草が多い方が根が強くなり台風などの自然災害にも負けなくなるようです。農薬も殺虫剤も利用していませんが生態系が保たれているので虫の発生源になることもありません。これが本来の自然の姿ですが、「景観が悪い」「虫が湧いて迷惑だ」と周囲の農家さんから批判があるようで、周りからの理解を得ることが今後の課題です。



いつもはあまり聞くことの無い獣害についてもお話がありました。営農のモチベーション低下の大きな原因となっています。それだけでなく、篠山だけでも年間2000万円の被害があります。せっかく育てた野菜も、サルが集団でやってきて一晩で根こそぎ食べていってしまうのです。よく柵で畑を囲む対策法がありますが、一方でその周辺の木の樹皮が食べられる被害が生まれてしまいます。農業を守れば林業に影響が出てしまうのです。銃殺したシカ、イノシシも様々な課題がありなかなかうまく活用できていない問題もあります。清野さんはシカの角で掃除をしていると言っていました。このような、小さなアイデアを拾っていくことが出来ればよいのでしょうかね。
最後に我々消費者ができることについて。市場にはたくさんの商品が並んでいますが、その中から我々が責任を持って選ぶことが重要です。その眼を養う訓練も必要です。清野さんが強調していたのは、生産現場に行って作っているところを自分で確認してほしいということでした。参加者の方が、「自分のため思い、高いもの・良いものを見るようになるとそういうものに買い慣れて来るのだよね」とおっしゃっていました。筆者はこの意見にかなり納得させられました。学生だから、今のうちは大丈夫だからなんて言っていないで今すぐ行動に移してみるべきですね。みなさんも是非考えてみて下さい。 (S. T.)

第84回 「フグはなぜ毒を持つのか? ~身近な魚から考える生物進化~」
「あ!なんか泳いでる!小さくてかわいいお魚だ!」というような声が聞こえる中で今回のサイエンスカフェが始まりました。というのも、話題提供者の橋口さんが研究で飼育しているヤリタナゴとアブラボテ(この2種は遺伝子的に近い種だそうです)に加え、お隣の研究室からお借りしたゼブラフィッシュを持参して下さいました。



まずは進化についてのレクチャー。みなさん、そもそも進化って何でしょうかね。今の20~30代の人にとってはポケモン、今の子たちにとっては妖怪ウォッチで「進化」はおなじみのはずです。ただ、厳密にはこれは「変態」という現象です。気持ち悪いイモムシから全く見た目がちがうカブトムシやチョウの成虫が誕生することですね。経験上、「進化するとかっこよくなって強くなる」というのが私たちが思っている「進化」ですが、学問の世界では「遺伝子の時間的な変化のこと」とされています。そのため、何かの機能を失うなど、我々からすると退化だと思われることも進化のうちに含まれます。
それを踏まえた上で、本題「なぜフグは毒を持つのか」というテーマに迫っていきました。フグが持つ毒はテトロドトキシン (tetrodotoxin, TTX)というものです。これは神経毒と言われ、人間が摂取すると脳からの命令を体中に伝えることが出来なくなってしまいます。進化の過程で、従来は重金属を体外に排出するために使われていたスズ結合タンパクの遺伝子が偶然変化し、フグ毒結合タンパクができました。これによって、フグの仲間はTTXに対する耐性を身に付けました。このTTXは敵から身を守ることや、オスを引き寄せるためのフェロモンとして利用していると考えられています。
また、フグは自分で毒を生産しているのではないそうです。TTXを生産している細菌を微生物が食べ、それをエサにする貝やヒトデをフグが食べることでフグの体に毒が蓄積していきます。そのため、毒が入っていない飼料で育てられる養殖のフグは毒を持たないようです。フグは種類によって毒を蓄えておく部位が違うようで、皮膚や卵巣、腸などいろんなところに貯められているようです。面白いことに、TTXを摂取していない養殖フグは凶暴になるそうです。フグ毒による食中毒は家庭などで素人が料理することによって引き起こされることが多いようなので、フグを食べる時は必ず専門家に任せましょう。といっても私はフグを食べたことがないのですが…。



カフェの後半には、橋口さんが実際に研究しているタナゴのお話がありました。ヤリタナゴとアブラボテは同じ川に生息していますが、両者間で雑種が生まれることも多く、進化について考えるのに適切な生物だということでした。その雑種についても、細胞の中にあるミトコンドリアの遺伝子を見ると、お母さんがどちらなのかが分かります。遺伝子を見ることで、その魚が持つ歴史をさかのぼることができるのです。
今回のサイエンスカフェは少し硬派な内容でしたね。ただ、自分ではなかなか踏み入れることのできない生物研究の最先端の世界を垣間見ることができたのは、今後自分の興味をさらに深く追求する足掛かりになると思います。自分が高校生の時にこのカフェに参加していたら何を感じどんな学びを得ただろうか、私はそんな感想を持ちました。(S. T.)

追記:今回は、タナゴやゼブラフィッシュを展示するため、天五中崎通商店街のユニークな熱帯魚カフェ・バー、近藤熱帯魚店さんにご協力いただきました。ありがとうございました。

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