北天満サイエンスカフェ
北天満サイエンスカフェは、天五中崎通り商店街(おいでやす通り)で行われている、まちづくりと地域活性のための
プロジェクトです。お茶を飲む気軽さで、科学者と一般の皆さんが議論・交流する場を提供しています。


第73回「研究現場はどうなっているのか STAP細胞事件から考える」
仕事の合間でもついついサッカーの試合結果が気になってしまう今日この頃ですが、みなさんは最近どんな話題に興味をお持ちですか?
近頃、世間を騒がせる話題はサッカーだけではありません。発表されてから「世紀の大発見/ノーベル賞級」とまで言われていたのも束の間、今ではその存在が疑われるものとなってしまった「STAP細胞」。これも皆さんが興味持っている話題のひとつではないでしょうか?



第73回北天満サイエンスカフェ。今回は近畿大学の榎木英介先生にお越しいただき、「研究現場はどうなっているのか? STAP細胞事件から考える」をテーマに、会場の参加者と現在の科学の現状について考えました。世間を騒がせるホットな話題なだけあって、会場は満員でした。
何故このような事態を招いたのでしょうか?
榎木先生曰く、「現在の研究の在り方」に問題があるということでした。 研究をするためにはとにもかくにも一定の「研究費」の確保が大事です。競争的資金を確保するためには採択されるに値する「研究課題/結果」が必要です。そうして採択され、得られた研究費を基にして研究者は研究を続けることができます。ですからこのプロセスは非常に大切です。しかし、現在の研究者(特に大きな額の研究費を動かす一部の有名研究者)の姿勢として「研究課題=科学的好奇心の対象」というよりも「研究課題=お金を得る為の手段」に偏っているように思われます。



STAP細胞が初めて公表された会見でもそれが露呈したようです。榎木先生曰く、この会見では「iPSよりも優れている」という点を図とともに過度に誇張されていたそうです。ここに「理研CDB vs iPS研究所」の研究費獲得競争の構図が見て取れます。

さらに理研CDBのSTAP論文関係者(共著者)は情報漏洩を防ぐために発表直前まで極秘扱いとし、STAP細胞を発見した女性研究者を一部の有名研究者で囲い込んでしまいました。そのため、この女性研究者の研究結果を第三者による精査がされないまま発表を迎えてしまいました。共著者たちですら彼女のデータを精査してこなかったというのもおかしな話です。資金獲得競争に勝つことに執着したあまり、研究者として最も大事な「科学的好奇心」を置いてきてしまったツケとして、今回の騒動を招いたのだと私は思います。
STAP細胞の有無の判断は非常に困難を極めます。特に「STAP現象は無い」ことの証明はおそらく不可能に近いそうです。しかし、発見者である女性研究者は如何なる意図があったにせよ、「データに不備があったこと」に対する処分はしっかりと受けるべきです。研究者の価値は論文で評価されます。その論文の信用が失われた今、捏造の意図が無かったかどうかなど「どうでもいい」ことなのです。そして、彼女を囲い込んできた研究者の責任は重大です。本来、論文の共著者とは研究に対して責任を追うべき立場なのです。決して名前だけ載せておけばいい安易な物ではありません。ですから、誰が、研究にどこまで関わっているのかは「どうでもいい」ことなのです。会場からは「研究倫理に対する教育を重視すべき」との声も上がりました。その通りだと思います。
科学の進歩が激しい今の時代。研究費獲得競争は激化しています。そのため研究者の価値はこの競争を勝ち抜いて研究予算を獲得できることにあるように見受けられます。果たして本当にそれでよいのでしょうか?
現在の研究のあり方では「STAP騒動」の様な形でひずみが出てくるのは必然だったのかもしれません。今回のようなサイエンスのひずみが生まれた今だからこそ、普段研究に触れない方々が科学を考えるに良い機会なのだと思います。
今のサイエンスはいったいどうなっているのか?なぜこのような事態が起こったのか?科学に普段携わらない世間は、サイエンスにいったい何を求めればよいのか? ぜひとも考えてみてください。(M.T.)

…(続き)