北天満サイエンスカフェ
北天満サイエンスカフェは、天五中崎通り商店街(おいでやす通り)で行われている、まちづくりと地域活性のための
プロジェクトです。お茶を飲む気軽さで、科学者と一般の皆さんが議論・交流する場を提供しています。


第81回「ロシアよもやま話」
今回のテーマは「ロシアよもやま話」です。広くて寒そうな国ロシア。どんなお話になるのでしょうか。



開始前から、会場ではロシア版のアニメ『雪の女王』の映像が流れていました。これはディズニー映画『アナと雪の女王』のモチーフとなったアンデルセンの『雪の女王』が最初に映画化されたものです。 という話を枕に、まずはロシアという国の大きさや人口などの基本情報をおさえます。ロシア語を書くのに使う「キリル文字」の紹介も外せません。ソチオリンピックの開会式の映像を覚えておいででしょうか?「オリンピックを、文字(を使ったロシアの紹介)から始めるこの国、すごいですよね」とは話題提供者の北岡さん。このキリル文字も、英語などで使われるローマ字(ラテン文字)も、ギリシャ文字から派生したものです。この3種類の文字を並べて、形を比べてみると、ローマ字はギリシャ文字よりも全体的に丸くなり、キリル文字はギリシャ文字に比較的近い形をしています。北岡さんは、「ヘンな文字と言われることのあるキリル文字のほうが正統派」なのだと主張 されていました。
また、この日(2月22日)はウクライナで紛争が始まって1年目にあたる日でした。昔、ソ連があった頃のウクライナは、ソ連の中の「一 共和国」という立場でした。そのため、同じくソ連の一部であるロシアからウクライナへクリミア半島を譲渡することは、大した問題ではなかったのです。ところがソ連が解体して、クリミア半島がウクライナという別の国の土地になったことで、ロシアは痛手を受けました(その後のクリミアの状況は、ご存知の通りです)。これは、同じような問題の、氷山の一角にすぎません。たとえば、ソ連時代にウクライナやウズベキスタンなどからロシアへ働きに出た場合(その逆も然り)。ソ連が崩壊してそれらが別の国になってしまったことで、故郷に帰るのが難しくなってしまった人がたくさんいます。しかも実は、北方領土でも同じことが起きています。たとえば、ソ連 時代に、僻地手当(年金が早くもらえるようになります)などを 目当てに北方四島へ渡ってきたグルジア人にとって、国内の移動であったはずなのに、今暮らす島と、時々帰る故郷のグルジアは違う国になってしまいました。 こうした「移民」系の島民はたくさんいるそうです。



北方領土は日本とロシアが領有権をめぐって対立している土地で、実際に島に住んでいるのはロシアの人たちばかりです。この島に行くには、ロシアのビザを取って、ロシア側から入るしかないのですが、日本の外務省はそれを認めません。なぜなら、その人が北方四島をロシアの領土と認めたことを意味するからです。とはいえ、以前島に住んでいた日本人のお墓などはまだ残っています。そのため、お墓詣りなどは人道的に「許可」されているのです。ここまではご存じの方も多いかもしれませんが、実はさらに、なんと、島では日本語教育が行われている のです。ロシアが実効支配しているとは言っても、島が日本の領土だということになれば、住民たちはどうなるでしょうか。というわけで、島の人たちに日本を知ってもらおうと、ビザなしでの交流事業(北方四島から日本に来る、日本から北方四島へ行く)がもう20年以上も続けられているのです。日本語教育もその一環で、日本から派遣された日本語教師各島2 名(合計6名)の下で、子供から大人まで(クラスは別ですが)日本語を学習しています。北岡さんは、通訳としてその事業に同行されています。子供たちの発表会の映像も見ましたが、なんともほほえましい姿でした。これが係争中の土地で起きていることかと、驚くほど平和で心温まる光景でした。



さて、そろそろ終盤というところで、今回はチョコレート休憩をはさみます。このチョコレートはウクライナの「ロシェン」というメーカーのものです(日本でも買えます!)。「ロシェン」の前にポ、後にコを付けると、ウクライナの大統領の名前、ポロシェンコになります。このチョコレート会社は、その大統領のものなのです。ロシア人はお金を稼ぐことを美徳としないところもあるようですが 、お隣のウクライナには実業家がいるものですね。 そうこうするうちに終了時刻がやってきてしまいました。発言もたくさんあり、盛会のうちにお開きとなりました。終了後も残っていた方が多かったのが印象的でした。
ちなみに、今回から中崎北天満サイエンスカフェは日曜日の開催がメインになります。お時間があればぜひぜひ覗きにいらしてくださいね。(R.E.)

第80回「ゴリラの社会を覗いてみよう 群れの暮らしと、ひとり暮らし」
新年あけましておめでございます。本年も中崎北天満サイエンスカフェをよろしくお願いいたします。
とはいったものの、年が明けて正月気分はとうの昔に抜けてしまいましたね。今年一回目のサイエンスカフェは夜の18時スタートなのにもかかわらず、会場が満杯になるほど。しかも、多くの意見が飛び交い、サイエンスカフェらしい時間でした。本当にありがとうございます。



今回はゴリラの話ということで、京都大学の若き研究者、坪川桂子さんに来ていただきました。野生のゴリラの行動研究は片手で数えるほどしか日本ではいないそうで、どのように現地に行って、そしてどのような活動をしているのかなどの研究の舞台裏も話題になりました。
ゴリラ研究で有名なのは現在の京都大学総長の山極寿一さんですが、彼が研究しているのはマウンテンゴリラ。一方、坪川さんが研究しているのはニシローランドゴリラで、ガボンの国立公園の中で観察を行っているとのこと。マウンテンゴリラの研究が早くから進んでいたのに対し、ニシローランドゴリラはここ10年でかなり研究が進んできたそうです。ゴリラは餌付けならぬ人付け(人に慣れさせること)をしないと研究ができず、その人付けにはとても時間がかかるそうです。慣れてくると群れのリーダーであるシルバーバック(成熟したオス)と挨拶を交わすことができるようにもなるそうです。



ゴリラは体つきが物々しいのもあって凶暴なのではないかというイメージを持っている方もいるでしょう。確かにオスの犬歯はとても発達しています。だけども、その犬歯が積極的に使われているわけではありません。オス同士の喧嘩はドラミングなどの誇示行動と言われるアピールで、結果的になあなあで済ませるのがゴリラの流儀。このことから山極さんは人間がゴリラを見習ってゴリラのような社会を目指すべきだという興味深いことを言っています。
そんなゴリラの社会はどのようなものかというと、一夫多妻で群れの子どもはほとんど全部リーダーのシルバーバックの子どもであることが遺伝学の研究でわかっているそうです。メスを連れていないオスは独りオスとして単体で暮らしたり、オスだけの群れをつくったりします。坪川さんは修士の頃に独りオスをストーカー(笑)していたそうで、こういう独りオスはたいてい若いそうです。メスは一生の間に何度かオスを選び直し、オスは選ばれるようにアピールを磨いているように思える場面もあったとのこと。



ゴリラ愛に満ち溢れた坪川さんが山極さんとは異なる意見を言っていました。ゴリラにはゴリラの社会があり、人には人の社会がある。私はとても共感できます。でも、山極さんの戦争のない社会を目指そうとする心意気も捨てがたい。人にできるのはいろいろなものから学び、考え、悩むこと。ゴリラに学びつつ、人に見合った社会を考えていかないとな~と人間らしく物思いにふける今日このごろです。(K. Y.)

…(続き)