北天満サイエンスカフェ
北天満サイエンスカフェは、天五中崎通り商店街(おいでやす通り)で行われている、まちづくりと地域活性のための
プロジェクトです。お茶を飲む気軽さで、科学者と一般の皆さんが議論・交流する場を提供しています。


第111回 宇宙をX線で診察してみよう
連日の猛暑の続く8月6日(日)の夕刻、北天満地区の小さな集会所、北天満会館に老若男女が集まってきました。毎年8月は「黄昏サイエンスカフェ」。日常を離れて、大きな宇宙の話題を取り上げてきました。今年は、最近名古屋から移ってきたばかりの松本浩典さん(大阪大学大学院理学研究科)にX戦天文学の最新の話題を紹介してもらいました。



実は、2年前の黄昏サイエンスカフェでも、「ブラックホールを見る?」と題して林田清さん(大阪大学大学院理学研究科)にX線天文学のお話ししていただきました。そのとき、林田さんは、ブラックホールは宇宙に星の数程あると言っておられたのが印象的でした。その後、X線観測衛星「ひとみ」が打ち上げられて、大きな発見がたくさん成されることが期待されたのですが、残念ながら姿勢制御装置のトラブルで「ひとみ」は短命に終わりました。今回のサイエンスカフェでは、再び打ち上げが計画されている「ひとみ2」のミッションについても話題になりました。

X線はレントゲン写真や空港の手荷物検査でおなじみですが、目に見えない高エネルギーの電磁波(光)で、波長は1mmの100万分の1。地球を覆う大気の層を透過できないので、宇宙のX線は人工衛星に載せたX線望遠鏡を使ってはじめて観測されます。松本さんは、むしろ可視光こそが、いろいろの波長の光の中で奇跡的に地表まで届いていると強調しました。

可視光の望遠鏡は、ガラスのレンズや反射鏡を使いますが、「ひとみ」に搭載されていたX線の特殊なレンズは、まるで玉ねぎのような構造で、何重にも重なった玉ねぎの皮の間を反射しながら進むX線を1点に集めえて結像させるようになっています。「ひとみ」はこの高分解能のX線望遠鏡によって、宇宙空間がぼんやりとX線を放出しているのではなく、X線も天の川のように、無数の星から放出されていることを明らかにしました。

X線は高エネルギーなので、数100万度を超える高温の天体から放出されてきます。また、荷電粒子が加速されて吸い込まれてゆくブラックホールの周辺からも放出されます。しかし、ブラックホールは巨大な重力で何でも飲み込んでしまうので、ブラックホールの中からはX線も出てこれないことに。恒星は燃え尽きた最後に超新星爆発を起こし、中心に残された物質が自分自身の重さを支えられなくなって、その大きさによって、中性子星をつくったり、ブラックホールになったりします。参加者からは、中性子星は固体なのか、液体なのかという質問が。これに松本さんは、中性子星の地震が観測されていて、それから固体であることが分かっていると。

また、銀河の中心には、まだ起源の明らかになっていない巨大ブラックホールが存在します。その質量は、銀河全体の質量の100万分の1程度で、不思議なことに銀河の大きさに関わらず、同じくらいの割合であるそうです。巨大ブラックホールは、銀河系がどのようにして生まれたのかを解き明かすためにヒントを与えてくれるに違いない大きな謎です。

参加者からは、「機会があれば、続きの話が聞きたい」との感想が寄せられました。人間社会で起きていることが、とてもちっぽけなことであると気づかせてくれるサイエンスカフェでした。

第109回 オランウータンの森を消費する私たち 見えない油「パーム油問題」
6月11日、穏やかな心地よい昼下がり、天五中崎通商店の 興学院前の路上に椅子がならべられ、サイエンスカフェが始まりました。話題提供はボルネオ(カリマンタン)の人々の暮らしや環境を研究されてきた神前進一さんです。お住まいのある箕面では、「菜の花プロジェクトみのお」代表としても活躍されています。



神前さんははじめに、サイエンスカフェチラシのイラストはスローロリスというサルで、しばしば日本にもペットとして密輸されている。オランウータンの子供もまた密輸の対象となっていると切り出しました。オランウータンはマレー語で「森の人」という意味で、生物進化においては、我々人間のいとこです。

ボルネオ島では1980年代から木材輸出のための大規模な森林伐採が進み、かつてボルネオ島全域に広がっていた森が急激に失われています。それに伴って、森の住人オランウータンも減っているのだと言います。

現在オランウータンの生息密度の高い所を調査すると、島に住むオランウータンのうち、3/4の個体が保護区域の外で生活していることが分かりました。保護区域外ではアブラヤシ・プランテーションをはじめとした開発が進んでいます。一方、保護区域の代表的存在である国立公園内でも、業者が地元政府を買収して開発を進めているため、森林が減少しています。あと15年でオランウータンの生息地の98%が失われるとも言われています。



オランウータンは主にイチジクなどの森の果物を食べて生活しています。しかしアブラヤシ・プランテーションによって原生林が切り倒されると、食物がなくなる。そこでオランウータンは植えられたアブラヤシの新芽を食べる。そこで業者は現地人などにお金を払ってオランウータンを「駆除」する。オランウータンは保護されているので、殺害は違法、罰則もあるけれども、どれだけ厳格に適用されているかは怪しい。

アブラヤシは、もともと西アフリカが原産。その実からとれる油、パーム油はインドネシアから世界中に輸出され、日本もたくさん輸入しています。ポテトチップスを揚げたり、化粧品などの原料になったり、私たちは毎日パーム油を使って暮らしています。パーム油は安価で、油糧作物としての生産性が高く、世界で一番使用される油なのです。ヨーロッパでは、なんと化石燃料を消費しない「環境にやさしい」燃料として、ディーゼルエンジンや発電にも使われているそうです。

ボルネオやスマトラの低地の熱帯雨林は、しばしは泥炭湿地の上に存在します。泥炭湿地は植物の死骸が何メートルも積み重なって、水の中に浸かっている状態です。ところが、そこを切り開いてアブラヤシの畑にするために、湿地から水を抜き、土地を乾燥させます。大規模な森林火災も頻繁に発生していることが大きなニュースになりました。分厚い泥炭層が燃える森林火災は、消火が困難で、長い年月に亘って森に蓄えられてきた炭素を大規模に大気中に放出することにもなっています。

インドネシアでは、パーム油は今や重要な商品作物で、アブラヤシで農家は現金収入を得ています。神前さんは持続可能なパーム油生産を育てることが重要と強調します。日本ではまだあまり知られていないけれども、「持続可能なパーム油」RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)認証というものがあり、ヨーロッパでは、RSPOの認証マークのある商品を選んで買う文化が根付きつつあるそうです。RSPO認証については、例えばWWFのホームページを参照してください。

私たちにとって当たり前となっている日常の生活が、オラウータンたちの森を奪うだけでなく、地球環境の破壊によって私たち自身の生存を脅かすことになっていることも知り、私たちの生活の在り方を考えるきっかけとなるサイエンスカフェでした。(H. M.)

…(続き)