• 第56回「食の安全を考える-予防原則が子供たちを守る-」

    Date: 2013.01.26 | Category: 未分類 | Tags:

    2013年最初の北天満サイエンスカフェが1月19日に行われました。テーマは「食の安全を考える ―予防原則が子供たちを守る―」、話題提供者は美作大学の山口英昌さんです。

     

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    山口さんはまずテーマにもある、「食の安全」について定義されました。定義は人によって様々ですが、山口さんが語るには、食べることによって命がつながる、このことを妨げないことだそうです。このつながる命には子や孫も含むので、子供を守ることが重要だ、とのことでした。

    そのためには食物が我々に届くまでの農場・牧場・漁場から始まり、製造・流通といった様々な食環境のすべてで安全が保証される必要があるとも説明されました。

     

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    次に山口さんは化学物質に絞って、欧州と日本の食の安全についての意識の差について説明されました。

    例としては、牛のエサに混ぜることで肉を軟らかくしたり成長を早めたりする合成ホルモンがあります。欧州は1988年に使用禁止、1989年に輸入も禁止してそれ以降米国の制裁関税やWTOの勧告があっても断固として規制を解除していません。しかし日本は1995年までは使用禁止、肉からの検出も禁止していたのですが、WTOの要求で残留基準を設ける、つまりは肉からの合成ホルモンの検出量について規制をゆるめています。

    遺伝子組み換え食品についても、日本は米国の2年後から輸入を認可しています(栽培は禁止)していますが、欧州は2000年代にモラトリアムといって遺伝子組み換え食品の輸入・栽培などについて一旦禁止しています。

    BSEや遺伝子組み換え食品に関するトレーサビリティ(訴追可能性)についても、欧州では証明は必須で、書類は5年の保存が義務づけられているのに対し、日本では証明は任意で、書類も2年保存と短いです。

    黄色4号などの子供の行動や注意に影響を与える可能性のある着色料については、欧州ではその旨を記載する義務がありますが、日本ではありませんし、有機水銀、ダイオキシン・カドミウムなどの化学物質についても、日本では適用除外の魚が諸外国より多かったり、欧州にはある食品ごとの規制値があまりなかったりすることなども説明がありました。

     

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    その次にテーマのもうひとつの骨子「予防原則」について話がありました。予防原則というのは動物実験などによってリスクがあるという理由づけはできるが、(人間にも同じく害があるという)証拠に欠ける場合でも、予めリスクを評価し、予防的な対策をとるというものです。わかりやすく表現すると、「疑わしくは罰する」のようなかんじです。一方「未然防止」という概念もあり、こちらは証拠が十分なものに対してのみ対策をとる、「疑わしきは罰せず」といったところでしょうか。

    この「リスク」に関して生産者(添加物を使って安く作りたい)と消費者(安心・安全な食品がほしい)は利害が一致せず、そのための意思疎通(リスクコミュニケーション)が必要ですが、日本ではまだまだ食品のリスクを開示しようとする行政面の力が弱いためあまり実現していません。

    一方の欧州では各種食品関連法の基本となる原則などを定めた規則に以上の予防原則、リスクコミュニケーションについて明記されています。

    山口さんは、これらの点をふまえても日本では子供を守り、農業を守ることが疎かになっているのではないかとおっしゃっていました。

     

    最後になりましたが、当日は最高気温が10度を下回る寒さの中お越しくださり活発な議論で場を盛り上げて下さった来場者のみなさま、話題提供者として様々な知識を提供して下さった山口さん、場所だけでなく今回はこのブログのために写真を提供してくださった商店街のみなさまに篤くお礼を申し上げます。(Y.N.)

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    また、山口さんご紹介のウェブサイト「食の安全・市民ホットライン」では、食の安全にかかわる不具合情報の収集と公表を行っています。安全な食生活を送るのにぜひお役立てください。

    「食の安全・市民ホットライン」

    http://fsafety-info.org/