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第59回「日本の風景 水田の生物学 イタチムシの話」
今回のサイエンスカフェ、話題提供者は大阪大学大学院理学研究科の院生、鈴木隆仁さんです。20代の若手研究者ですが、鈴木さんは今日のテーマ、イタチムシの世界中に10人もいない研究者の一人で、これまでに生息してないとされていた田んぼにも、イタチムシがいることを発見しました。
4月も下旬になったら暖かくなるかと思いきや、この日も20度を下回る気温で、ちょっと肌寒い日でした。それでも、アーケードに椅子を並べて、いつも通りの路上サイエンスカフェとなりました。元気な若者以外の参加者には、申し訳ありませんでした。
鈴木さんははじめに、弥生時代から2000年続く稲作によって作り出された日本の水田の生態学について解説されました。日本の水田には、なんと6700種もの生物が生息しているそうです。人間が作り出した環境ですが、日本の自然の中では重要な地位を占めています。圃場整備によって、水路と段差ができるだけで、川から魚が入って来られなくなったり、水路に転落したカエルが戻って来られなくなったりするので、最近では魚が住めるように水路との段差を小さくする工夫をした水田もあるそうです。
水田の生態系は食物連鎖のつながりだけではなく、複雑なネットワークの微妙なバランスで成り立っています。鈴木さんは、アメリカの水田で、蚊の発生を抑制しようとカダヤシという生き物を水田に放って、ボウフラを食べさせようとしたところ、カダヤシはボウフラより先に他のムシを食べてしまって、逆に蚊が大発生してしまったという例を挙げてくれました。
水田は、年中水が張られているわけでもなく、水が張られていても浅く、太陽光を遮る木もないので、昼間には水温が30度以上にもなる、どちらかというと生き物にとっては、過酷な環境だそうです。それでも、その環境を良しとする生き物たちがしっかりと暮らしているのです。イタチムシもその一つ。
イタチムシという名前ですが、イタチとは親戚ではありません。体長がわずか0.1 mmの小さなムシで、泳いでいても肉眼には点にしか見えない、どの生き物たちと親戚なのかもいまだ不明の生き物だそうです。顕微鏡写真にイタチの絵を重ねるとイタチのように見えなくもないので、イタチムシと命名されました。
イタチムシは、田植えのために水を張った時に現れ、2週間ほどだけ活動し、数回卵を産みます。ホウネンエビなどと同じようなライフサイクルをもっていて、田に水が張られていないときは、耐久卵として地中で休眠しています。まるで植物のようですね。卵の大きさは、体長の3分の1にも達するので、親は自らの腹を裂いて出産するそうです。また、イタチムシは交配することなく、単為生殖で増えます。活動する時間があまりに短いので、交配の相手を見つける暇もないのかもしれません。あるイタチムシを採取して、1週間後に同じ田んぼで探しても見つからず、別の種類のイタチムシが見つかったりするそうです。いったい何種類のイタチムシがどれくらいの範囲に分布しているのかも分からない。採取できるのも田んぼに水が張られている短い期間だけという、なんとも難しい研究対象なのです。というわけで、とても忙しい時期を迎える直前の鈴木さんに、北天満にお越しいただきました。楽しいお話をありがとうございました。(Y. N.)
参加者の感想
・田んぼの中にたくさんの生き物がいると知って驚きました。
普段は聞けない様な話ばかりだったので聞けて良かったです。・特に興味深かったのは、イタチムシは無 性生殖を行うにも関わらず、個体どうしの遺 伝子組成がそれぞれ異なるということです。 イタチムシの研究はまだ十分に進んでおら ず、そこら辺はまだまだ謎な部分も多いと か。生物学は奥が深いです。
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