Archive for 3月, 2011

  • 第25回 「血液の話」

    Date: 2011.03.09 | Category: 未分類 | Response: 0

     2月のサイエンスカフェは、「医療情報センターあさひ」の寺岡敦子さんを話題提供者にお迎えし、「血液の話」というテーマでお話ししていただきました。私たちの体の中を流れる血液の中に含まれる各成分は、とても重要な働きを担っています。そのため、血液を「肝臓より大きな臓器」としてとらえる見方もあるんだとか。それぞれの血液成分の働きを詳しく見てみると、まず赤血球は全身に酸素を運ぶいわば「酸素配送トラック」の役目をしています。また、5種類ある白血球のうちの一つである好中球の役目は、病原体を食べ、殺して体を守る「兵隊」です。この「兵隊」の死骸が「膿」なんだそうです。そして顕微鏡が未発達の頃は、その小ささから実態がよくわからず「血液のゴミ(!)」として認識されていた血小板は、止血の役割を担っています。

    この血小板が活性化する方向にいくと、私たちの血流は「血栓性」いわゆる「血液どろどろ」の性質を帯び、逆に血小板の活性化を阻害する方向にいくと、「抗血栓性」すなわち「血液さらさら」の性質を帯びるのだそうです。血小板の活性化を抑える「抗血小板剤」は、脳梗塞や狭心症の再発予防に使われています。

     また、通常私たちが怪我をして血が出た時、その血は時間がたてば固まりますが、このような血が固まるという反応は血中の「血液凝固因子」という成分が働いているからなのです。特定の因子が不足するために血が止まりにくくなる病気が血友病です。血友病の治療には、凝固因子製剤を用いて不足している因子を補給しなければなりませんが、1980年代には患者の方に輸注された凝固因子製剤の中に含まれていたエイズウイルスのために「薬害エイズ」問題が起きています。

     一方、血管が狭くなり血が流れにくくなる動脈硬化症は、狭心症や脳梗塞など深刻な合併症を引き起こす可能性のある病気です。糖尿病などの生活習慣病も動脈硬化につながることがあり、最近注目されることの多い病気ですが、その予防のためにはいったい何をすればいいのでしょうか。先ほどご紹介した抗血小板剤の服用や運動、コレステロールの管理などのほか、寺岡さんは普段の食事にイワシなどの青魚を取り入れることもとても有効だとおっしゃっていました。これは、青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)という物質が血中で抗血栓性の物質に変化するためだそうです。他にも動脈硬化症予防のための食事としては、ビタミンCやEを含む野菜もよいそうです。ちなみに、ビタミンCを含む野菜には、かんきつ類、ブロッコリー、トマト等があり、ビタミンEを含む野菜には、ピーナッツ、アーモンド、大豆等があります。また意外に知られていないのが脱水症状の予防ではないでしょうか。これには近年普及したペットボトルが活躍しているようです。さらに、ストレスも動脈硬化には良くないのだとか。実際、1995年の阪神淡路大震災の際に被災し車中での生活を余儀なくされた人たちの中には、動脈硬化症を発症された方が多かったということです。

    また、動脈硬化のような病気だけではなく、花粉症や食物アレルギーといったアレルギー症状も、実は血液が深く関係しているんです。花粉やほこりなどのアレルギーの引き金となる物質を抗原といいますが、これが体の中に入ってくると体はそれに反応し、血中で抗体を生成しこれが抗塩基球という白血球の一種の表面に付着します。抗体が作られた状態で体が再び同じ抗原の侵入を受けると、抗塩基球などの白血球が化学物質を生成し、かゆみや鼻炎を引き起こします。これがアレルギーです。私自身も毎年花粉症には悩まされているのですが、その仕組みを初めてきちんと知りました。

     さらに血液といえば、科学の進歩とともに発展してきたのが輸血です。医学が未発達だった17世紀のヨーロッパでは、なんと仔羊の血を貧血患者に注射したという記録も残っていますが、1900年にはABO血液型が発見され、その後勃発した第一次世界大戦の際には傷ついた兵士を救うため、アメリカなどで輸血の分野が大きく進歩しました。それとは対照的に輸血の技術が遅れていた日本では1930年、当時の浜口総理大臣が狙撃を受け、輸血によって一命を取り留めたことから輸血の発展が始まりました。はじめは売血体制がとられていましたが、1964年にライシャワー駐日米大使が当時19歳の少年に刺されて負傷し手術の際に受けた輸血によって血清肝炎を患ったことから、献血制度へ移行することとなりました。しかし、献血は個人の意思に委ねられているため血液が不足しているのが現状です。そこで、「成分輸血」と言って患者さんに必要な血液成分のみを輸血し貴重な血液を最大限活用する取り組みも行われていますが、それにも限界があります。そこで最近では「人工血液」といって、赤血球などの血液成分の代わりをする物質が人工的に開発されているところだそうです。このような輸血にまつわる最近の動向に関して、会場からは「献血はしてみたいけれど少し不安」という声や、反対に「定期的に行っている」といった声が聞かれました。

     さて、ここまでは血液の働きやそれによって引き起こされる体の反応、そして輸血についてお話があったわけですが、血液に関してもうひとつ気になる話題といえばやっぱり血液型の話。そもそも人間の血液型には、ご存知のとおりA型、B型、O型、AB型の四種類がありますよね。日本人ではA・B・O・ABの割合が4:3:2:1ですが、民族によってもこの割合は異なります。この血液型に関して、日本で盛んなのが「血液型占い」。例えば、A型は几帳面、B型はマイペース、O型は社交的、AB型は気難しいなどです。テレビや書籍などで、誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、寺岡さんによると、実際は性格と血液型の間に直接的な関連を求めるのは難しいようです。ただ、「関連がない」という証拠がない限り、全く関連がないとも言えないのが科学の世界。血液型に関しては、完全に解明されていないことがまだまだあるのかもしれません。血液型と病気に対する抵抗性が関係していると考えている学者もいます。

     今回の「血液の話」は、身近な話題ながら初めて知ることがたくさんありました。自らの健康と結び付けやすいテーマだったため、参加者の方からも質問や感想が積極的に飛び出し、活発なサイエンスカフェとなりました。

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