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  • 第19回「男と女、それを決めるのは何かー発生学、心理学、進化学、歴史学の視点からー」

    Date: 2010.10.02 | Category: 未分類 | Response: 0

    暑かった夏もようやく終わり、涼しい風が吹き出した9月のサイエンスカフェのテーマは、「男と女、それを決めるのは何か」。副題に「発生学、心理学、進化学、歴史学の視点から」とあり、「性」というものをいろいろな視点から語る内容となりました。

    話題提供は、ルイ・パストゥール医学研究センターの宇野賀津子さん。ご専門は免疫学なのですが、もう一つの専門として、性科学も同時に研究されているとのこと。

    「男と女の関係学」について、幅広い観点から見てみようということで、まずは人類の歴史を探ります。
    諸説はありますが、3万5千年前に原生人類(いまの人類の直接の祖先となる人類)は誕生したといわれています。それ以降人口は増え続けてきたわけですが、人口が激増したのは産業革命後のこと。つまり人類の歴史からすればつい最近の出来事といえます。産業革命以後は乳幼児の死亡率が低くなっていき、人口は「多産多死」→「多産少死」→「少産少死」という流れで変化してきたのですが、女性のライフサイクルはどのように変化してきたのでしょうか。
    狩猟採集生活をしていたころの女性は、月経が始まる頃に結婚し、思春期不妊(月経周期が定まらず妊娠しにくい)を経て出産。一生で平均5人の子どもを産み、閉経を迎える頃には人生も終わりにさしかかっている、というような人生が一般的だったようです。このようなライフサイクルは、日本でいう弥生時代〜鎌倉・室町時代まで続きました。つまり、ほんの数百年前まで女性は人生の多くを出産や育児に費やしていたわけです。
    一方、現代女性は月経を迎えてからすぐに結婚、というようなことはなく、結婚後に産む子どもも1〜2人が一般的です。加えて平均寿命が伸びたことから、閉経後も人生が続いていきます。出産や育児に費やしていた時間を別なところに使えるようになったということですね。
    このように人類の歴史を見ると、女性の性役割が時代が経るにしたがって変化してきたことがわかります。

    次に、進化学の観点から性役割について見ていきましょう。
    もともと水中で暮らしていた生物が進化の過程で陸上生活に適応するためには、乾燥に対する抵抗、呼吸法(肺呼吸)、そして陸上での生殖法が必要でした。ほ乳類の特徴として、メスのお腹の中で子どもを育てるという生殖法が確立していきます。これは女性側への負担が大きい生殖法と見ることもできます。

    また、科学の発展は男女の関係に変化をもたらしました。
    顕微鏡が発明された17世紀頃、研究者たちはこぞって様々なものを顕微鏡で観察したのですが、精子を顕微鏡で観察したところ、精子の中に赤ん坊のミニチュアが入っていることが発見されスケッチにのこされました。もちろん、それは赤ん坊のミニチュアなどではなく、現在のものよりも性能の悪い顕微鏡で見るとそう見えないこともないのですが、男性の方が優位で、女性は単なる保育器にすぎないという当時の考え方を反映しているようにも思えます。
    また、江戸時代には家の跡継ぎとなる男の子を産めない妻は「女腹」となじられ、実家に帰されたりということがありました。しかし生物学的には、卵子の遺伝子が22+X、精子の遺伝子が22+Xと22+Yの二種類であることから、性別の決定権は男性にあるといえます。(実際に意思によって決定することはもちろんできませんが。)
    最近では、人間の胚は基本的に女性になる方向で分化をしており、男性になるにはSRY遺伝子という遺伝子の働きが不可欠であることもわかってきました。
    このような一連の科学的解明から、昔は無条件に男性優位と信じられていた男女間の関係性も、少しずつ変化していると思われます。

    さて、ヒトはそもそもどのようなプロセスで性別が分かれているのでしょうか。
    前述したように、精子がX染色体を持っているか、Y染色体を持っているかによってまず遺伝的性が決定します。その後遺伝子の働きによって性腺の性が決定します。性腺とは、精巣や卵巣、そして性ホルモンの分泌にかかわる部分を指します。そしてホルモン分泌により、身体的性も決定されます。内性器、外性器の決定がそれにあたります。そして、心の性。なんと、現在の研究によると、赤ちゃんが母体にいる間に心の性が方向づけられると考えられているそうです。これは意外な話で、非常に驚いてしまいましたが、確かにこう考えると「性同一性障害」に関しても納得がいくのです。

    性同一性障害とは、体と心の性別が一致していない状態、つまり体は完全に男/女であるにも関わらず、本人の心の性が異なっている状態を指します。先ほどの、「心の性は産まれる前に方向づけられている」という論が正しいとすると、(たとえば)男として産まれ男として育てられたにも関わらず女性の心を持っている、という状態にも一応の説明がつくのです。
    性同一性障害について理解が進んでいなかった時代は、カウンセリングなどで心の性を体の性に合わせようとしていました。体が男/女である以上、心の性が異なっているのはおかしい、「治療」すべきものだと考えられていたのです。徐々に、心の性に体の性を会わせる方が自然だという見方が広まっていき、性転換手術なども受け入れられるようになっていきました。とはいえ、人によっていろいろな段階があり、手術をして体を心の性に変える人もいれば、心の性に合った格好をしていれば満足という人もおり、そのあたりは様々だそうです。
    性同一性障害とまではいかなくても、自分の性に関して、社会的・文化的につくられた性役割(ジェンダー)に違和感を感じたことがある人は少なからずいると思います。「男/女らしく」という概念は時に人を苦しめてしまうものです。典型的男/女というのはあるかもしれないけれども、男女とは二分された概念ではなく、数直線の両極のようなもので、どちらにより近いかということにすぎないという性概念はこれから広く受け入れられていくのではないかと思いました。

    1950年代に入ると、電化製品の普及により女性の家事労働の軽減や獲得情報量の増大が起こります。女性は徐々に自分自身の時間を持てるようになり、男性と同等の情報や知識を獲得できるようになりました。
    また、人工乳の発達により、今まで女性だけのものであった授乳の役割が男性にも代替可能となったことで、男女の性役割の境目はさらに薄くなっています。
    これからも、社会の変化や科学の発展が、新しい男と女の関係学を作っていくのでしょう。

    さて、昨年10月に始まった北天満サイエンスカフェも来月で一周年を迎えます。
    10月23日(土)13時から行われる北天満の秋祭りの一イベントとしてサイエンスカフェが行われます。
    次回のテーマは「演劇の人間模様を科学する(仮)」。時間はいつもより一時間遅く、15時からとなりますのでお間違えのないように!

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