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第21回 「水とアルコールの微妙な混ざり方」
北天満は知る人ぞ知るキタのお酒愛好者の街です。でも、けっして呑兵衛の街ではありません。北天満サイエンスカフェの会場の直ぐ真向には、泡盛で有名な梯梧屋さん、アメリカ産のワインがおいしい奥田屋さん。ちょっと角を曲がれば、希少な日本酒を味わうことができる杜氏屋さん。ご主人の中野恵利さんは、日本酒紹介の本も出されています。お酒よりは肴という人にとっても、ほっこりとした煮付けの大皿に思わず足を止めてしまう古い町屋のお店が並んでいるお酒愛好家を魅了する街なのです。ということで、今回北天満サイエンスカフェに登場したのは、アルコールと水の混ざり方の研究では世界的権威の古賀精方(こがよしかた)さん。なんと、カナダ・バンクーバーから、北天満のお酒愛好家たちのためにお越しいただきました。実は、たまたま大阪に滞在中だったので、声をかけたら快く話題提供を引き受けてくれたというわけです。もちろん、古賀さんも日本酒にはちょっとうるさい。小学生の時に満州から引き上げ、福岡で育った九州人なので、辛口好み。
さて、本日のテーマ『水とアルコールの微妙な混ざり方』は、あくまでも化学のお話。古賀さんは、「地球は水だらけ」と、地球上の生命が水という化学物質に満たされた恵まれた環境の中で生まれ育ったことを示しました。そして、ありふれた物質でありながら、化学的には特異な水分子の性質について、なんと!サツマイモと割り箸で作った分子模型を駆使して面白く説明してくれました。水の特徴は、液体なのに水分子同志しっかりとした結合でネットワークを作り、しかもそのネットワークは隙間だらけということ。これにむしろ普通の分子であるアルコールが混ざろうとしても、ミクロには一様に混ざらないのです。コップに入った透明なお酒も、本当は混ざっていないのかも。
水にアルコールを加えていったときに、アルコールが薄いときには、全体として水の構造が保持され隙間にアルコール分子が入り込み、逆に、アルコールが濃くなると、アルコール分子の海の中に水分子の塊の島が浮かぶ構造になっているであろうことが予想されます。古賀さんは、それがアルコールの濃度によって連続的に変化するのではなく、水リッチ、アルコールリッチとその中間域の3領域に明確に区分され、その境界が存在することを示しました。その境界は化学の世界では「古賀ライン」と呼ばれています。アルコール濃度が「古賀ライン」を越えるお酒は危険という。つまり、水の構造が保たれていることが、心地よく酔えるお酒ということかも。
熱弁をふるってもらった1時間半でしたが、参加者の多数を占める北天満のお酒愛好家たちのもっぱらの関心は、どうすればもっとおいしくお酒を味わうことができるのか。飛び出す質問も、焼酎をお湯に注ぐべきか、あるいはお湯を焼酎に注ぐべきか?これには、水とアルコールの混ざり方の権威もたじたじ。お酒には、最新科学もまだ及ばない深い世界があるというお酒愛好家には満足の結論に到達したサイエンスカフェでした。古賀さん、今度大阪に来たときには、お酒愛好家たちと一緒に、北天満でお酒を深く探求しましょう。
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