• 第44回「食卓のサイエンス シジミの生態から経済まで」

    Date: 2012.04.23 | Category: 未分類 | Tags:

    暖かな春の日、商店街においしそうな香りが広がります。今日のサイエンスカフェでは、まず参加者にシジミの味噌汁がふるまわれました。

    「おいしいですよ」笑顔の参加者の方の言葉に、安木先生は安心した表情を浮かべます。

    今日のサイエンスカフェのテーマは「食卓のサイエンス シジミの生態から経済まで」。話題を提供してくださるのは、大阪国際大学の安木新一郎さんです。

     

     

    「今皆さんが食べているシジミは実はスーパーで売られているシジミと少し違うんです。実はこのシジミはセタシジミと言って、琵琶湖で採れた、淡水域に生息するシジミです。皆さんが普段召し上がっているのは、汽水域で暮らすヤマトシジミなんです」

    まさかシジミに種類があったなんて!他にもシジミには、きれいな淡水を好むマシジミ、汚い水を好む、外来種のタイワンシジミなどの種類があるそうです。

    安木さんは研究室でセタシジミを飼育し、研究されています。

    ちなみに、シジミは国内産が多いのですが、輸入されているもののほとんどはロシア産だそうです。ただし、ロシア人はシジミを食べず、採ったものはすべて日本へ輸出しているそう。

    また、食用となるのは主にセタシジミとヤマトシジミで、セタシジミが一番おいしいのだそうです。さらに、シジミを冷凍すれば、もっとうまみが増すそうです。これは、シジミが冬が来たと勘違いして冬眠の準備をし、栄養を蓄えるからです。

     

     

    今回はシジミという身近な生き物がテーマだったためでしょうか、多くの参加者の方からいろいろな疑問や意見が寄せられました。食の安全に関する質問も多かったです。

    「貝類は体内に化学物質や重金属を蓄積するそうですが、たくさんシジミを食べても大丈夫でしょうか?」、「シジミを食べるよりはオルニチン(シジミに含まれる物質)のカプセルを飲んだほうがいいですか?」などは、市民の食の安全に対する意識の高さを窺わせます。

    安木さんによると「市場で出回っているものは厚生労働省の検査を受けたものなので安全」ということでした。また、オルニチンに関しては、現在はダイズに特別な酵素を加えて発酵させることで人工的に作り出す技術があるため、カプセルなどに入れて売られているオルニチンは必ずしもシジミ由来ではないとのことです。その上で、安木さんは個人的な考えであり、科学的なものではないですが、と前置きをして、やはり素材そのものを食べることが大事ではないか、と言われました。

     

     

    ここで、シジミの生態の話。

    シジミの口のある場所に始まり、シジミが夜行性であることや砂地を好むことなどがわかりました。食べ物については、野生のシジミたちは一日に14リットルもの水を取り込み、そこから栄養をこしとって生きているそうです。安木さんは、シジミに与える餌として植物プランクトンや豆乳などを試したのち、現在は水草をやっているそうです。

     

     

    さて、続いては近年シジミの生産量と消費量が減ってきているというお話。シジミの生産量が減っている原因は、水質汚染や、国の汽水域の淡水化事業による生息域の減少、シジミ漁師の高齢化・後継者不足に伴う人手不足など様々です。特に生息域の縮小問題は深刻で、ヤマトシジミやセタシジミは絶滅の危機に瀕しています。そんなシジミたちを保護するため、かつ生産量を増やすために、安木さんは京都府精華町でシジミを水田で栽培(シジミの養殖には栽培、という単語を使うそうです!)する技術などの開発もされています。

    しかし、消費量が増えなければ生産量を増やしても意味がありません。シジミはここ30年ほどの間に消費量が3分の1程度に落ち込んでしまったそうです。何故でしょうか。

    それには生産量が少ないため高価であること、そしてシジミを使った料理の種類が少ないことから、食べつける人が減っているのではないかということが考えられます。

    さて、ではどうすればシジミの消費が増えるのか。ユニークなアイデアが飛び交いました。「学校給食にシジミ汁を出そう」、「もっと大きなシジミを売ろう」、「食べ合わせを工夫しよう」などなど…。この中からシジミの危機を救う妙案が生まれるのでしょうか、安木さんのこれからの研究から目が離せません。またこれを機に、みなさまがシジミを食べる機会が少しでも増えれば、と思いました。

     

    本日お越しくださった方々、安木さん、安木さんの奥さま、商店街のみなさま、ありがとうございました。(Y.W.)