Archive for 5月 3rd, 2011
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第26回 社会的信頼学と天満・天神での(小さな)試み 「安全・安心なまち」から「信頼のまち」へ
ちょっぴり肌寒いこの日の北天満サイエンスカフェのテーマは「社会的信頼学と天満・天神での(小さな)試み―『安全・安心なまち』から『信頼のまち』へ―」。話題提供者は関西大学社会的信頼システム創生センターの与謝野有紀さんです。
「信頼」なんて無くても、きちんとしたシステムや制度があればだいじょうぶだろう、なんて思ってしまうのですが…。でも、与謝野さんによると「よく工夫されたシステムでもパーフェクトとは限らない」とのこと。世の中は予測できない「不確実」なもの。不確実であるがゆえに相手を推測しなければなりません。「この相手は自分を裏切らないだろう」という推測こそが、「信頼」であるといいます。
でも、「信頼」を学問として研究するとはどういうことなのでしょうか。まず与謝野さんが取り出したのは、GDPと平均余命の関係を表すグラフ。一人あたりのGDPが高い国であれば、平均余命も伸びています。これは医療環境や食生活の充実の結果と言えるでしょう。しかし、一人当たりのGDPが高い国であっても、一定の水準に達するとそれ以上余命は伸びなくなります。この事態に対する説明として、「豊かな社会」においては所得水準ではなく、格差こそが人々の健康に影響する、という議論が展開されています。ここでは、他人や過去の自分と比較して、あるべき「何か」を持っていないという状態を「格差」と呼んでいます。格差がある社会では、持つ者と持たざる者の間コミュニケーションがどうしても希薄になり、分断状態に陥ってしまいます。するとお互いへの信頼が壊れ、共同することが難しくなって経済効率や治安の悪化を招きます。実際にも死亡率と「人は自分につけこんでくる」と考える人の割合は比例していることを表すデータも存在するといいます。
また、日本はOECD諸国における自殺率で2位となっていますが、とある統計では「見知らぬ誰かを信頼できる」と答えた人の割合が高い県ほど死亡率は低くなっていたんだとか。与謝野さんはこれらのことから、信頼が人間の生命に影響しているのではないか、と考えているそうです。
そこで地域社会の信頼の再建のために与謝野さんが携わっているのが天神橋筋・中崎町界隈の「古書店マップ」の作成です。サイエンスカフェが行われている場所から近いこの地域には数多くの古書店がありますが、古書店同士の交流はあまり盛んではないそうです。そこで関西大学の学生さんたちがこの界隈の古書店を一つ一つ紹介した地図を作製し、古書店の店主の方々に配りました。その結果、店主の方々も「近くにこんなにたくさん古書店があるとは知らなかった」と驚き、マップをもとにお互いを訪ね商売上の情報交換や相談をすることが増えたといいます。この「小さな試み」はまだ始まったばかりですが、そこから少しずつ「信頼」の芽が育っていくといいな、と思いました。「信頼があふれる、そんな社会の必要・十分条件を探っていきたい」という与謝野さんの言葉が印象的でした。
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