Archive for 8月 29th, 2011
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第31回「デカルトの宇宙」
7月16日、今回のサイエンスカフェは「黄昏サイエンスカフェ」と題していつもより遅い18時からの開始です。テーマは「デカルトの宇宙」で、話題提供者は大阪大学の望月太郎さんでした。ここ黒崎東商店街では、前日にお祭りがあったそうで、テントや提灯がまだ残されていました。そのテントの下が、今回のサイエンスカフェの会場となりました。お祭りとサイエンスカフェとは、一見奇妙な組み合わせですが、やってみると開放的な雰囲気が「通りすがり大歓迎」のサイエンスカフェのコンセプトにぴったり。
最初に、望月さんが「今回のサイエンスカフェに興味を持ったのはなぜですか?」と来場者の方々に質問を投げかけました。その答えは「もともと『宇宙』に関心があったから」、逆に「『デカルト』に興味があったから」など様々でした。それにしても「なぜ、数学者・哲学者として有名なデカルトと宇宙が結びつくのだろう?」というのは多くの方が胸に抱いていた疑問のようです。実は私もその中の一人でした。「デカルト」と「宇宙」という組み合わせが、何か斬新な、意外なものに思えました。
さて、そもそもデカルトは、17世紀の人で、出生はフランス。30歳ごろからオランダに移り住んだそうです。当時のオランダは世界の貿易の中心地であり、また宗教的に寛容なことでも知られていました。当時は地動説を主張したガリレオの宗教裁判が行われるなど、科学者に対する宗教的な迫害が厳しい時代でした。デカルトの移住にも、そのような理由が影響したのかもしれないということでした。
もともとscience(科学)というラテン語は、学問全体をさす言葉で、そこで定義される「学問」とは、仮説を立てて検証し、一般化・普遍化した法則を得るという一連の営みをさしていました。(自然)哲学は形而上学、自然学などに枝分かれしていますが、望月さんによればデカルトが扱ったのはその全体だったといいます。デカルトは、この世界は、思考活動を本質とする実体である「精神」と、その延長としての実体である「物体」から成り立っているととなえました。そして、永遠真理(=数学的な真理、普遍的な法則)は神がそれを創造して自然界に設置し、人間の精神に刻んだと考えたのです。当時は、科学を語る際にもこのように「神」という存在、キリスト教のドグマが常に付きまとったのです。
また、デカルトは、物体は空間を隙間なく埋め尽くしており、そのため真空は存在しないと考えていました。さらに、実質的には地動説を支持しつつ、宇宙空間においては微細な粒子が空間を埋め尽くしており、その動きによって無数の渦巻きが発生しているなどの独特の持論を加えて、自然の姿を説明しようと試みました。彼のとなえた様々な説は、実験から導かれたのではなく、ある公理から出発してそれをとことん突き詰めて考えていくというやり方から得られたもので、ほとんどの説は後に論駁されてしまいます。
ここで一つの疑問が生じます。彼の説の多くが、現代の科学の知識と異なったものであるならば、彼の業績に、あるいは彼の考えを知ることにどのような価値があるのでしょうか。その答えは、望月さんと参加者の方々との質疑応答・意見交換の際に徐々に見えてきました。というより、その場にいた全員で見出していったという方が適切かもしれません。参加者のある方は、デカルトが、不完全な理論ながらも当時主流であった天動説を覆し、新しい宇宙観を生み出したことに価値があるのではとおっしゃっていました。従来は神の領域であった自然の真理に人間の知性が届くようになったというのは、大きな進歩であったにちがいありません。
また、科学史を知るということは、自分達が今持っている知識の背景を知ることであり、さらなる発展につながるのではないかという意見も出ました。望月さんによると科学の知というのは、直線的に進歩しているわけではなく、あちこちで寄り道し立ち止りながら、よりよい方向を目指して進んでいくのだといいます。実際、デカルトの時代にも、科学者たちは手紙等を通じてお互いに論争しあいながら自分達の知を修正していったのだそうです。過ちや失敗を繰り返しながらも、「科学の知は、正解に近付いて行っていると思う」という望月さんの言葉が印象的でした。(M)
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