Archive for 2月 20th, 2012
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第42回「母との関係、社会との関係-ニホンザルの場合-」
この日はとても寒く、北摂では雪が積もっていました。そんな寒い日でも商店街でサイエンスカフェをするため、事務所の外に簡易式のテントを組み立てて透明なビニールで覆い、商店街の路上にあったかスペースを作りました。
今回のテーマは「母との関係、社会との関係―ニホンザルの場合―」。話題提供は大阪大学人間科学研究科の大学院生、鋤納有実子さんです。鋤納さんは京都の嵐山のニホンザルの集団を対象に、ニホンザルの母子の関係、子育ての仕方を研究されています。
鋤納さんはまず研究対象の嵐山ニホンザル集団について説明されました。
「嵐山のサル集団は研究しやすいように管理されています。1日に4回、山頂の展望台兼エサ場で餌やりが行われるので、日中サルはエサ場の周辺にいます。夕方になると職員の人に促されながら山奥へ戻っていきます」
嵐山にこんな場所があったこと、ご存じだったでしょうか?実はここは「嵐山モンキーパークいわたやま」といって、一般の人でも見学や餌やりができるところなのです!「エサをもらう合間の時間は、サルたちは毛づくろいをしあったり、昼寝をしたり、また子供たちは遊んだりして過ごします。エサを食べる時の行動や、こういった毛づくろいや社会的遊びを観察することで、サルの間の関係や社会について研究します」
そう説明しながら、鋤納さんはサルたちの映像を流されます。じゃれあう子ザルたちはとても愛くるしかったです。
嵐山で管理されているニホンザルは130~140頭いるそうですが、鋤納さんはそのサルたちをどのように研究しているのでしょうか? サルの一日の次は、研究者の一日の紹介です。
鋤納さんが嵐山に行くのは週3回。開園から閉園までの間、130頭のうち、子ザル7頭を中心に観察しています。まず群れの中からターゲットの子ザルを見つけ、一定時間(20分)観察し、また別の子ザルを観察します。時間や順番は偏らないようにしているそう。
しかも、対象を群れの中から見つけられるということは、つまり鋤納さんはすべてのサルの顔を覚えているということです!いったいどのようにしてサルたちを識別しているのでしょうか?
「ではこのスライドをご覧ください」
見るとそこには4枚のニホンザルの写真が。
「この左上の写真のサルの娘にあたるサルは、3頭のうちどれでしょう?」
お客さん、スタッフ一同首をかしげます。みんな同じに見えます。左上のサルだけ年を取っていることさえ気づきませんでした。
正解したのは半分ほどの人でしたが、なんと鋤納さんは130頭が正しく見分けられるだけでなく、母子の血縁関係もわかるのです。ちなみに、具体的には鼻や目元が似ているなど人間の親子を見るときと見方は変わらないそうです。さらには後姿でも個体が識別できるようになってくるというのですからすごい……。
そんな鋤納さんも、初めは嵐山に行かない時もサルの写真と名前をスクラップしたノートを使って、一頭一頭覚えていったそうです。どの研究者もだいたい嵐山に通い始めて2,3か月で見分けがつくようになるとのことでした。
次は、ニホンザルの子供がどのように成長するかの説明です。ニホンザルは生後1か月ほどすると母親から離れて行動できるようになります。もちろん母親はそばで見守っています。3か月すれば同年代のサルと遊ぶようになります。5か月するとまだ母乳中心ではありますが自分で食べ物を取ったり、年上の子ザルとも遊んだりするようになり、ますます行動範囲が広がります。やがて母親から離乳を促され、2歳までには離乳するそうです。大人になるのは5歳くらいからです。
その中で母親は子供にどのような影響を与えるのでしょうか?鋤納さんは最後に、ご自身が研究されていた1頭のみなしごの子ザルの話をされました。
その子の母親はその子が生後8か月の時にけがが原因で群れから姿を消しました。するとその後、子ザルの採食の時間は3倍に増え、社会的遊びや一人遊びの時間が減りました。これは母乳がもらえなくなったことで、より多くのえさを自分で見つけねばならなくなったことを意味しています。また遊び時間が減ったのは、精神的にも時間的にも余裕がなくなってしまったためでしょう。抑うつ状態に陥っていたのかもしれません。
他のサルとの関係に注目すると、母親という仲介者を失ったため、大人のサルとのかかわりが減った一方で、子供のサルとの関係に変化はありませんでした。また、今までは母親に毛づくろいをしてもらっていたのが、別の個体が代わりに毛づくろいをしてくれるようになりました。つまりみなしごの世話をしてくれるサルが現れたのです。このサルはみなしごよりは年上の子ザルです。はじめはいろいろなサルが構ってくれたのですが、次第に4~5歳の2頭のサルにしぼられていきました。みなしごは集団の中での順位が低く、この2頭も順位が低かったのですが、それがどう関係しているのかは鋤納さんも気になっているところのようです。
こうしてほかの子供たちが面倒を見た甲斐もあってか、母親が群れを去ってすぐは激減した遊びの時間も、数か月するとやや持ち直し、そのみなしごザルは今も元気に嵐山で暮らしているそうです。母親という存在は重要ですが、同年代の子ザルとの交流が子ザルの成長にとって大きな役割を果たしていることがわかりました。この点でヒトとサルは似ていると鋤納さんは指摘しました。
今回は暖かい室内でたくさんの質問が交わされ、雰囲気も温かでした。ニホンザルの知られざる一面、およびサル研究者の研究生活を知ることができた貴重な日となりました。お越しくださった方、商店街の方々、鋤納さんありがとうございました。(W)
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