• 第13回「ニュートンも没頭した錬金術 – なぜ人間は金を作ろうとしたのか? – 」

    Date: 2010.05.01 | Category: 未分類 | Tags:

    新学期最初のサイエンスカフェは、なんだか机の上の様子もいつもと違いますよ…

    今日のテーマは、錬金術。みなさんは錬金術と聞いてどんなものが思い浮かぶでしょうか?怪しげな魔術的なイメージ?最近ではマンガやアニメにも取り上げられているみたいです。(前回の子どもサイエンスカフェに来ていた子どもたちが、今回のタイトルを聞いてなんだか嬉しそうにはしゃいでいました)ニュートンといえば万有引力の発見などで有名な科学者ですけれども、彼が錬金術に没頭していた!?と驚く方もいらっしゃるかもしれませんね。

    今回の話題提供をしてくださるのは、元大阪大学教授の小森田精子さんです。

    と、ここで問題です。

    この二つの金属塊(ひとつはバイクの形になっちゃってますが)、どちらが金メッキでしょうか?

    写真だけではちょっとわかりにくいかもしれないですね。正解は後ほど。

    錬金術とは、金以外の金属から黄金を造りだす術のことです。人類は多くの時代と地域において金を価値あるものとして扱ってきました。それは現代も然りですね。希少で価値ある金を、他の一般的金属から作ることができたらどんなにいいだろう。金に対する思想の違いは後述するように地域によって多少差があるのですが、錬金術は造贋金術、造金術、長生術として各地で発展を遂げていきます。

    ニュートンの話に戻りましょう。今でこそ近代科学の祖として名高いニュートンですが、彼はどっぷり錬金術にはまっていました。もちろん、錬金術における数々の研究が後の近代科学の礎となった背景を思えば、それもそう不思議がることではないのかもしれませんが、ニュートンの没後、彼の伝記を書く人々は「ニュートンが錬金術にはまってたなんて書くのは、最初の科学者ニュートンに対して失礼にあたる」として積極的にはそのような記述をしなかったらしいのです。

    ところが1936年にニュートンの姪の子孫にあたる人が、所有していたニュートンの錬金術手稿などの文書を売却したことで、ニュートンが錬金術思想に傾倒していたというのは学術的にも公式の事実として扱われることとなります。経済学者のケインズは、ニュートンを「理性の最初の人ではなく、魔術師たちの最後の人」つまり最初の科学者ではなく最後の錬金術師であったと評しました。

    さて、ニュートンも没頭した錬金術、一般的には中世ヨーロッパなどで盛んに研究されていた印象が強いと思うのですが、中国・インドにも錬金術があったことはご存知でしょうか。

    中国では「練丹術」と呼ばれ、主に長生術つまり長生きの法として研究が進められていました。古代中国では、金は錆びることなく土中から発掘してもその輝きを失わないことから、不変の象徴として扱われてきました。金には物質を変化させない作用があるのでは?と考えた当時の中国人たちは、何らかの形で金を体の中に取り入れようとしました。しかし、金は高価で希少なものです。そのため、金以外の金属から金を作ろうとするにいたったのです。

    また、仙薬として黄金とともに服用すべしとされていたのが丹砂です。これは水銀と硫黄の化合物、いわゆる硫化水銀というものです。当時の人たちは硫化水銀に熱を加え、酸化水銀として取り出したものを不老長寿の藥としていたのですから驚きですよね。中国の皇帝たちは皆不老長寿を求め水銀を摂取し、多くが水銀中毒で亡くなってしまったそうです。

    とはいえ、このような一連の長生術の研究は、中国における独自の東洋医学を発達させる原動力となっていきました。

    それから、インドの錬金術。これは現地の言葉でラサーヤナと呼ばれています。この言葉の意味は「長生術」。インドでも錬金術=長生術だったのです。ただ中国と違うのは、中国の錬丹術が金そのものを作り出してそれを体に取り入れることが目的だったのに対し、インドのラサーヤナの場合は金に含まれる不老不死になる要素を見つけることができれば、それを他の金属に付加すればその金属を金にすることができるとして、その要素を探求していったのです。つまり長生術を目的として、造金術はその手段であった、というわけですね。

    中世ヨーロッパの錬金術は12世紀ルネサンスの際にアラビアから伝わったものですが、さらに元をたどるとギリシャに行き着きます。古代ギリシャで行われていたのは、中国やインドと違い純粋に金自体を求める錬金術でした。不老不死といった思想背景は希薄であり、造贋金術として発展していきました。金らしい色をどうやって作るかということを追求し、金メッキなどの技術を作り出していったのです。そのため、中国やインドのような医学的発展よりも手工業的発展をしていきました。

    このように、錬金術は古代ギリシャ、中国、インドから続く非常に長い歴史を持っています。しかし、ご存知の通り金を造るという目論みは失敗してしまいました。

    それでは、錬金術に意味はなかったのか。というとそんなことは決してなく、非常に多くのことに影響を与えているわけです。これだけでも、現代の我々がその軌跡を学ぶ意味は十分にある!と言える、と先生は力強くおっしゃっていました。

    今回のカフェはかなり充実した内容で、ボリュームもたっぷりだったためになかなかレポートも難しかったのですが、私たちが所与のものとして扱っている技術には実はものすごい人間の歴史的営みが隠されているのだなということを感じました。

    ちなみにクイズの答えは、右のバイク型の方が金メッキでした!左の四角い方は真鍮でできています。予想は当たっていたでしょうか?