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第30回「細胞から知る再生医療」
今回のテーマは「細胞から知る再生医療」。話題提供者は大阪大学蛋白質研究所の二木杉子先生です。
お話は、まず「再生医療」という言葉を聞いて何をイメージするか、というところから始まりました。手塚治虫作『火の鳥』では人間の体の一部から新たな人間を作り出す話がありますが、現在の技術ではここまでのことは不可能だそう(まあ、そうですよね……)。
ですが、ある粉をかけると第一関節分ほどが切断された大人の指がなんと4週間で再生するという、信じがたいお話が。写真を見ると、確かに爪ごときれいに再生しています。この実験の詳細は明かされていないらしいのですが……、この粉、怪しすぎます。
そしてこの(怪しい)魔法の粉の正体こそ、実は先生の専門分野である「細胞外マトリックス」なのでした。この時使われたのはブタの膀胱のもの。膀胱が使われたのは、膀胱がきれいな袋状で、細胞がわりと均質で扱いやすいため、ブタのものが使われたのは、ブタと人間の内臓の大きさ等が比較的似ているからではないかとのことでした。
では、その「細胞外マトリックス」とは何なのか?と、ここで登場したのは人間の指の構造のイラスト。表皮の細胞の内側には、真皮の細胞や血管、骨などがあり、真皮の細胞は意外にも点在しています。そしてその隙間には何やらもやもやしたものが……。細胞外マトリックスの正体は、この「もやもや」です。細胞のまわりにはたんぱく質や多糖類でジャングルジムのようなかたちが構成されており、細胞の環境をつくっています。細胞外マトリックスは細胞の外にあるものの総称で、コラーゲンやヒアルロン酸、骨の硬いカルシウムなども含まれます。しかもこの細胞外マトリックスは、細胞がうでを伸ばして自分で自分のまわりにつくるのだそうです。細胞はただじっとしているのではなく、居心地の良い環境を自分で作り出しているんですね。
さて話題は「再生」に戻り、次に登場したのはイモリくんです。イモリは足を切られても再生することができるのです。もちろん、魔法の粉なしで。連続写真を見ると、確かに膝のあたりで切断されても根本近くから切断されても、指先まできれいに再生しています。これは幹細胞の働きによるものです。
幹細胞はどんな細胞にもなれる、再生能力の高い細胞です。イモリの足を切断すると、傷口に幹細胞のかたまりがもこもことでき、その細胞たちがもとの足を構成するように分化していくのです。
この「幹細胞」は人間ももっています。幹細胞が活発に活動している場所は、毛根、小腸と骨髄です。いま、この幹細胞を取り出して活性化したり、培養したりしてから体内に戻すことで臓器を再生させたり、病気を治療したりする技術に期待が寄せられています。しかし、細胞の中から幹細胞を判別してそれだけを取り出すのは難しいそうです。
さらに、近年ES細胞やiPS細胞というものも発見され、日夜研究が続いています。ES細胞は受精卵がすこし増えはじめたときに取り出して培養して得た幹細胞で、iPS細胞は分化した大人の細胞を取り出して遺伝子操作することによって未分化の状態(幹細胞)にリセットしたものです。参加者の方からはミューズ細胞についての質問もありました。ミューズ細胞は、細胞を劣条件下で培養し続けた時でも生き残るタフな細胞のことです。
しかし、幹細胞があれば解決、というわけにもいきません。培養した幹細胞を体内に戻すことはもちろん、実は特定の臓器だけを作ったり、部分的に臓器を再生させたりすることにも困難が待っています。
そもそも人間の赤ちゃんの体は、一つの受精卵が細胞分裂と分化を繰り返すことでできるのですが、このときに体の様々な細胞が誘導に関わりあっています。
また、赤ちゃんのときに使っている遺伝子の部分と大人になってから使っている遺伝子の部分は違うため、大人になってからでは特定の部位の再生ができないのです。大人の体でも発生のときのプログラムを再生できればいいのですが……。
でも、仮に特定の臓器の再生に成功し、移植が可能になったとすると、一度ある臓器を取りかえた人は、その一度だけで満足するのでしょうか?機械の部品のように、次から次へと体のパーツ取りかえようとする人が現れてもおかしくないことです。生活の質を保つだけなのか、不老不死を求めてしまうのか、再生医療にはその人の生き方を問う問題も含まれています(もちろん、いくら部品を取りかえても、不老不死は実現しないのですけど……)。
今回はいつもよりみなさんの距離が近く、とても良い雰囲気のサイエンスカフェでした。「魔法の粉を体内に入れたらどうなるんですか?」なんていう質問もありました。それには「だれか試してみてください」と笑い混じりでお返事する二木先生。指が再生するのなら、と期待してしまいますが、詳しいことはまだまだ不明のようです。
(E)
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