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第41回「手描き友禅の魅力」
2月4日。寒くなってきました。皆様、風邪や乾燥にお気を付けください。
この日のサイエンスカフェは、いつも行っている路上の向かいにある喫茶店「奥田屋」さんで開催しました。おしゃれなお店の、お座敷を使わせていただきました。
テーマは「手描き友禅の魅力」。話題提供をしてくださったのは水玉堂の谷 ゆり先生です。和装が素敵でした。
初めに、先生は着物の歴史について説明されました。
「着物と言いますと皆さんは和服を頭に浮かべるかと思います。ですが、着物が和服のことを指すようになったのは最近、昭和になってからのことです」
もともと日本人は服全般を「着物」と呼んでいました。それを見た西洋人は、日本人が来ている服、つまり和服を「着物」という名前で海外に紹介しました。昭和になると、日本人の間でも洋装が定着していき、日本古来の和服を「着物」と呼ぶ慣習が根付いたそうです。
「ですから当初の着物と和服の関係は、酒と日本酒の関係に似ていますね。酒も日本ではアルコール全般を指しますが、海外で「sake」と言えば日本酒を指します」
「職人とお相撲さんは話さなくていい、と思ったから職人になろうと思」った、と谷先生は冗談交じりにおっしゃいますが、とても丁寧にわかりやすく説明されます。
そして、話題は友禅の歴史へ。
「友禅という言葉は京都の宮崎友禅斎という扇の絵を描く人に由来します」
実は友禅とは人の名前だったのです。時は元禄。華やかな庶民文化が栄え、人々は派手な衣服を求めるようになりました。その中で、人気の扇絵師の友禅斎に、着物の絵を描いてほしいという依頼があり、友禅斎が着物の絵を描いたところ、大変人気となったそうです。元禄文化の中で、人々のファッションへの欲求にこたえるために着物を染める技術は進歩しており、友禅斎の繊細な絵を着物に描くことができたのです。友禅斎が絵を描いた着物が好評を博したのは、センスが良かったからだけではなく、当時の将軍5代目綱吉が人々に節制を命じたからでもありました。綱吉は庶民に刺繍や箔のない質素な服を着るようにお触れを出しました。ですが時は元禄時代。人々はファッションに対して華やかさを求めていました。そこで、刺繍や箔の無い、染めて模様をつける友禅斎の着物にスポットライトがあてられたのです。
しかし、この時点ではまだ、友禅という着物や、友禅染という言葉はなく、友禅とは一人の着物のデザイナーの名前にすぎませんでした。
着物の種類という意味での友禅という言葉が確立したのは、京都ではなく江戸においてでした。雛形、今でいうファッション誌で友禅がデザインした着物の特集記事が組まれ、それを機に江戸の人々は京都の着物を「友禅」と呼ぶようになったのです。
かくして、友禅斎のあずかり知らぬところで友禅という言葉が着物を指す言葉として定着したのです。ちなみに今回先生がお召しだった着物も友禅染の一種で、型友禅というものだそうです。色を差すときに型紙を使うので、量産が可能とのこと。明治時代に登場しました。
また、友禅染の特徴のひとつはのりで描かれた白い線です。これには線を引く専門の職人さんがいるのですが、最近はその職人さんも減ってきているため、谷先生もみずから練習なさっているとのことです。
のりを置くときは、柿渋を塗って強くした和紙に口金をつけ、糊を入れて絞り出しながら描きます。ホイップクリームを想像すると分かりやすいかもしれません。
友禅という言葉のユニークな由来について説明が済み、しばしの小休止。和室のアットホームな雰囲気で和んだお客さんから質問が飛び交います。今日は珍しい客人、いや客犬もいます。奥田屋の看板犬あらし君です。かわいい犬との触れ合いを楽しんだところで、後半は、先生が実際に友禅染を実演してくださいました。
まず登場したのは、両端に針がついた、弓なりに曲がった竹です。
「まずはこれで、色を差しやすいように生地をぴんと張ります」
作業の途中も、普段の仕事の様子についての質問が出ます。
「先生は普段は和室で作業されるのですか?」
「その顔料は何を使っていますか?」
次々飛び出す質問にも先生は一つずつ答えてくださいました。普段から仕事は和室で座ってされていますが、和服を着て作業をすることはないそうです。確かに袂が邪魔そうで、お客さまが貸してくださったたすきで急きょたすき掛けをして作業されました。また、顔料は化学系を使われているそうです。
生地を張ったら、顔料を溶かしやすくするため、電熱器で温めます。そして生地を電熱器にかざしながら、まず水のりを塗り、次に椿の花の中央に薄い桃色を差し、次に花弁の外側に白を差します。この時、白い顔料は平筆の先端の片側だけに付け、もう片側には水のりを付けます。そうすることで色をきれいにぼかすことができるのです。精密な技術に一同感心。また、この際に生地を温めるのは色をにじみにくくするためだそうですが、温めすぎるとかえってぼかしにくくなるので、その調節も必要です。
顔料が乾くと色はやや薄くなり、生地を立てて見ると立体感が生まれています。美しい出来栄えに歓声が上がりました。
このように染める作業も大変細やかで手がかかっていますが、一重ねの着物を作るには図案を書く人や色を差す人、生地を蒸す人、染めた部分に地色がつかないようにのりを置く人、地色を染める人、のりを落とす人など様々な人の手がかかっています。その分それぞれの着物がどれも唯一の美しさを持っています。普段見ることのできない伝統文化に触れることができ、貴重な体験をすることができました。谷先生、会場を貸してくださった「奥田屋」さま、そしてご来場くださった皆さま、ありがとうございました。(W)
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