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第37回「ナノテクノロジーの可能性 ナノの世界をのぞいてみよう」
11月に入り、風が少し冷たくなってきました。本日、第37回北天満サイエンスカフェのテーマは「ナノテクノロジーの可能性 ナノの世界をのぞいてみよう」。話題提供者は、大阪大学産業科学研究所の松本卓也さんです。
最近、何かと耳にすることが多くなった「ナノ」という言葉。今回は、その「ナノ」の世界に関するお話です。
松本さんによると、「ナノテクノロジー」という言葉を世界で最初に使ったのは、アメリカのビル・クリントン大統領(2000年1月当時)だったそうです。「広い範囲にまたがる普遍的な科学・技術概念」としてアメリカの国家政策の中に掲げられました。
ところで、そもそも「ナノ」とはどれくらいの大きさを表すのでしょうか。実は、「ナノ」という言葉は「10億分の1」を意味する接頭語。例えば、1ナノメートルというと10億分の1メートルに相当します。想像を絶するような小さな世界です。松本さんは、「太陽と私たち人間の大きさの比率がちょうど私たちとナノの比率と同じくらい」とおっしゃっていました。
つまり、ナノテクノロジーは、ナノメートルのスケール(これは原子、分子と同じレベル)において物質を制御する技術なのです。具体例として、備長炭、ヤモリの吸着の仕組み、トランジスタの配線等が挙がりました。
ナノスケールにおいては、「表面」の性質が支配的になるそうです。例えば、金のナノ金属粒子は、赤色に見えます。この赤色は、金の表面の性質なのです。ナノスケールの目標物の観察には、走査トンネル顕微鏡を使います。これは、原子の構造や表面を観察する際に用いられています。
また、表面の性質が顕著な物質として、フラーレン・ナノチューブ・グラファイトといった、多数の炭素原子で構成された物質があります。これらの物質は、半導体や燃料電池等への応用が期待されています。中でもナノチューブは、その強度や高い通電性等により、将来は、地球と人工衛星を結ぶ「軌道エレベーター」のロープの素材にも利用できるのではないかと考えられています。
それにしても、ナノスケールにおいて原子や分子を操作したり、加工したりするためにはどのような方法を使うのでしょうか。現在のところ、3つのアプローチ法があるといいます。一つ目は、「トップダウン」方式。これは、大きなものを「切っ」たり、「削っ」たりして小さく加工していく方法です。二つ目は「ボトムアップ」方式といい、個々の原子や分子を組み立て、新たな構造を作る方法です。三つ目は、「自己組織化」といい、ナノスケールの構造が自発的に形成される現象を指します。松本さんは、加工する者の技術面が反映され、同じものを大量生産するのが難しい前の二つの方法に比べ、「自己組織化」が最も有益と考え、期待されているそうです。
目には見えない、微細な「ナノ」の世界。そこで生みだされるナノテクノロジーが、実は私たちの生活を様々な場面で支えていることを知りました。また、産業・医療など多くの分野に渡りナノテクノロジーはさらなる可能性を秘めています。お話の後の質疑応答の際にも、ナノテクノロジーの「これから」に関して多くの質問が飛び交い、ちょっぴり肌寒い中、「熱い」カフェとなりました。(M.M.)
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