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第47回「化学者が見た日本農業~農民になってわかったこと~」
梅雨。本日も朝から雨でした。お客さんは少ないかな、と思いながら準備をしていましたが、2時前から数名の方が待っていました。こんな都会でも、いやこんな都会だからこそ、農業への関心が高いのかもしれません。
今回のテーマは「化学者が見た日本農業~農民になって分かったこと~」。話題提供は山縣恒明さん(元大阪大学)です。
初めに、山縣さんは化学者時代になさっていた研究の内容を紹介されました。不斉触媒反応を用いて、メントールを生成する、というものだそうです。メントールとは、ガムや歯磨き粉に使われている物質(あのスース―する成分)です。
大阪大学を退職された後、山縣さんはご両親の介護のために、鳥取と大阪との往復生活を始められます。そんな中、鳥取で目にしたのは、耕作放棄地となって荒れた田畑。生活を続けられるうち、年金だけでは頼りないので、何か金になることをしよう、そう考えて山縣さんが始められたのが農業です。
その後、山縣さんは農業の経験などがほとんどない状態から、耕作放棄地や休耕田を買って農業を起こしたプロセスを説明されました。土地を購入するには様々な制約があることや、行政からの補助金が得られることなど、知らないことばかりでとても新鮮でした。
山縣さんは2010年から本格的に農業を始められましたが、その時の農地は45a(アール)。そこから少しずつ規模を拡大し、今年は215aの農地に作物を育てます。内訳は畑が40a、水田が122a、飼料米が53a。飼料米は鶏のえさになるそうです。
では、それぞれがどのくらいの収益を上げているのでしょうか。こういうことは実際に農業をされている方からしか聞けません。
「米は1俵60キロで1万2千円で売れます。飼料米の方は1反8万円位です」
これに対して、反応が様々返ってきます。通行人の方からも声が上がりました。
「1万2千円じゃ儲からんなー」
「飼料米だけ作る方が儲かるのでは」
その意見は正しいようで、今のところ収支は赤字とのこと。大規模化をしてコストを下げれば、というのは安直な考えらしく、山縣さんのように一人で農業をされている人の場合、初期投資があまりに高くつき、結局割に合わないそうです。大型の農機具は何百万もするそうで、なんと、高級外車より高い!
しかも、これまで農業の経験などまったくなかった山縣さん。今のところ、毎年稲を生長させすぎて倒伏させてしまっているそうです。原因は栄養の与えすぎだそう。今年こそは倒伏させずに収量を上げる、と意気込んでおられました。
一方で、農業の改革の重要性も実感されているようです。しかしそれもなかなか難しいとのこと。
「農業は経験に頼らざるを得ません。ですが作物は年に1回しかできない。つまり農民は一つの作物について年に1回しか収穫の経験をできないのです。結果、どうしても冒険を避け、保守的になってしまいがちなのです」
的を射た指摘に思わずうなずきました。
それでも、化学者ということもあって、山縣さんの農業の方法はチャレンジや試行錯誤に満ちていました。
稲作については、技術がしっかり確立していると評価しつつも、除草剤を使わない農法はないか、水の管理を省力化できないか、様々な改良に腐心されているようです。目指しているのは「自然を汚さない、持続可能な農業」。農地にはソーラーパネルもあるそうです。玉ねぎを栽培するときにも、薬剤の代わりに牡蠣殻を使い、土壌にカルシウムを与えます。科学的な理論に基づいているところはさすが化学者です。
他にも、トウモロコシの二期作に挑戦して「儲かる農業」の確立に取り組んでいることや、白菜の花芽が実はおいしいということなどを紹介されていました。
お話を聞いていて、試行錯誤を楽しみながら農業をされているということが伝わってきました。まるで実験をしているようです。
「大事なのは、農家が自分の作りたいものを作る。そうすれば栽培される作物の幅が広まり、私たちの食生活も豊かになると思います」
山縣さんの挑戦は続きます。
農業生活をとてもユーモラスに語ってくださったおかげで、お話の後も会場からは質問が絶えませんでした。
ご来場下さった方、商店街の方々、何より鳥取よりお越しくださった山縣さん、ありがとうございました。
なお山縣さんが育てた作物は鳥取市の道の駅「清流茶屋 かわはら」
(http://www.cgr.mlit.go.jp/chiki/doyroj/station/cgi-bin/station_info.pl?param=3109)
で販売されています。鳥取に御用のある方は立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
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